喘息症状と頚肩・背部筋の凝りとの悪循環
喘息を抱えながら、首肩の凝りも自覚されている方は多のではないでしょうか?
体調が乱れている時は特に、肩や首に緊張が出始め
凝りが気になっても、そのまま無理したり休めなかったりすると
遂には喘息症状が現れてくる。 といった具合にです…
軽度の気管支喘息の場合、頚/肩/背部筋の凝りが因子となって
発作を誘因している事も考えられ、その場合は現代医学的鍼灸治療はとても有効です。
今回の患者様は、50歳代女性で施術後から症状が緩解したケースでした。
【 50歳代女性 】
喘息症状の他に軽度胸椎側弯症があり、背部に強い凝り感
腹臥位・座位で、胸椎夾脊Th1~Th5に鍼深刺(2寸5番で骨に当たるまで)施術。
施術中から症状は緩解しはじめ、施術後1時間経って電話で確認したところ
症状の緩解は持続中でした。そして、数か月たった今も症状は再発していないそうです。
とは言え、現代医学的鍼灸治療での有効条件は
頸/肩/背部筋の凝りとの合併による喘息増悪因子の場合であって
アレルギーの機序や、感染源に働きかける事はできません。
しかし、軽度の気管支喘息には凝りとの意外な関係があることも知って頂けたらと思います。
【 喘息と凝り ・・・ 互いに悪影響を与える関係とは? 】
喘息発作の流れを見ていきますと、気管支喘息 → 呼吸運動の乱れという流れ
呼吸運動の乱れとは、腹式呼吸 ( 横隔膜主体 ) から、胸式呼吸 ( 肋間筋主体 ) への
呼吸筋の運動性の変化という事で = 【 骨格筋運動性変化 】
その為、呼吸筋になんらかの緊張がある場合、これが切っ掛け(トリガー)となって
【 喘息発作 】 を誘発してしまう場合もあると言えます。
呼吸筋が緊張( 凝る )する要素には、慢性的な咳嗽による横隔膜の疲労などから
波及する事もじゅうぶんあるでしょうし
気管支に炎症が起こると 「 内臓⇒体壁知覚反射 」 によって、肩や首に凝りを感じる事もあります。
内臓体壁反射(ないぞうたいへきはんしゃ)とは? 内臓の疲れが肩こりや腰痛につながるって本当? | ココロとカラダのLOVEラトリー
内臓体壁反射は複雑にからみあって反応がでますので、なかなか理解するのがむづかしいですが
観察方法のひとつとして、わりとわかりやすい動画がありましたのでご紹介。
また、今回は臨床家さん向けの解説となってしまいますが
肺・気管支というのは、副交感神経優位な臓器です。
ですから喘息だけを考えると、交感神経の興奮が交通枝を介して体性神経を興奮させて現れる
「 体壁反応 ( 凝りや緊張 )」 は、現れづらい事になるかと思います。
また、針灸の治効機序というのは 「 脊髄神経刺激 → 交通枝 → 交感神経へ影響 」 というのが
通説であって、 「 交感神経の緊張減少 」 というのが一般的に支持されています。
要は、体壁反応は 「 交感神経興奮 」 に由来するが
針灸治療の場合は、圧痛や硬結反応を重視する事が多いと思いますので
二次的に生じた 「 脊髄神経興奮 」 による症状や反応に重点をおくのが普通で
反応としては、皮神経の疼痛過敏帯に反応が良く現れますが
今回のケースの場合、副交感神経優位の 「 肺・気管支 」 ですから
交感神経優位の反応をみようとしても、背中の起立筋群 ( 棘筋・腸肋筋・最長筋 )・短背筋群 ( 半棘筋・回旋筋・多裂筋 ) や
胸部の大胸筋には、凝りとしての反応は現れにくいのでは? と
思ってしまいがちですけど、慢性的な呼吸筋の運動性変化による凝りが
喘息発作のトリガー(きっかけ)となっているような場合には反応がでています。
ここでちょっと気になるのが、副交感神経優位 ( リラックス ) を助長させる施術を受けた場合
かえって喘息発作が誘引されてしまうようなケースもあるのでは? という事。
リラクゼーションや整体、又ほとんどの鍼灸院も穏やかな施術で
副交感神経優位(リラックス)に導くという処が多いのではないでしょうか?
せっかく施術を受けに来て下さったのに、喘息が余計に酷くなったと感じられてしまっては
治療院としても困ってしまいますよね。
そこで! 施術は、「 交感神経優位に導きながら 」 というのがポイントになります。
師匠のブログ にありますように、筋緊張の緩和を目的としつつ交感神経優位に導く事が
一時の喘息症状を抑える事につながります。
これは一見、矛盾しているような感じですが、胸椎夾脊Th1~Th5に鍼を深刺する事で可能。
ひとつは、深刺することで刺激の質は大きくなるであろうし胸部交感神経節にもなんらかの影響を与えたい狙いもあり
ふたつめは、胸部脊髄神経後枝も同時に刺激する事になりますので、上背部筋の凝りにも有効だからです。
今回の患者様には、軽度胸椎側弯症があり背部に強い凝り感もあったと述べました。
呼吸筋運動性変化や「 凝りやトリガーポイント 」の影響で、仮にそこから喘息発作を
誘引する要因となっているとするなら
凝りからくる自律神経症状も考慮しなくてはいけませんね。( 体性-内蔵反射 )
医科で咳喘息診断受けステロイドや複数の薬を処方されたが効果無く3月4日当院を受診した側弯症患者様。肺/気管支は副交感神経優位な臓器なので内臓体制反射→胸椎夾脊Th1~Th5反応☓・体制内蔵反射→咳喘息発作誘因◯、鍼施術にて胸部脊髄神経後枝/胸部交感神経節刺激し現在も症状消失中。 pic.twitter.com/nmIZBKnIPM
— 稲穂鍼灸院整骨院 (@inaho_sensei) 2017年10月21日
院長のコラム
今回のケースのような場合、機序を理解している事のほうが重要で
そこが現代医学的鍼灸治療の強みではないかと思います。
実際、「 交感神経優位に導きながら 」 という塩梅は、患者さんの感受性・施術者の経験則含めて
割りと曖昧なところでもあるでしょうし、東洋医学的な観念やもしくは整体観からすると
喘息の際に起こっている「 呼吸筋運動性変化 」 とは、無意識的に身体が緊張している呼吸筋群を
緩和させる為に起こっている反応とも捉える事ができると思いますし
これを歪みを正して行こうとする過程の身体反応と解釈したり表現すれば、ニュアンスも伝わりやすいのかもしれません。
どちらにせよ、症状というのはある一時の反応で 「 経過を辿ってから症状が落ち着く 」 事に着目すべきで
状況によっては一時の反応を薬で抑えるのありですし、鍼灸であれば刺激の強弱のような 「 質」 によっても
身体の受け取る反応は変わってくるという事です。